厚生局による、薬局に係る個別指導、監査、取消処分(取消相当)の公表された実例を4例、ご紹介します。
ご紹介する4例は、いずれも厚生局のウェブページで公表された実例であり、厚生局が保険薬局の指定の取消しや保険薬剤師の登録の取消しをする場合、実名で公表されることが通例です。インターネットで公表されると、長期間にわたりインターネット検索でヒットすることになりますので、当該薬局・薬剤師の不利益は大きいといえます。指導監査となってしまった場合は、可能な限り取消処分とならないよう、適切に対応することが重要です。
なお、取消処分の前に保険薬局の指定を辞退していたり、保険薬局を廃止したりしていても、厚生局によって、取消相当として、実名で公表されることになります。
事例1 別薬局の調剤分の不正請求
同一の開設者の薬局において、別に開設する保険薬局で行われた調剤分について、当該薬局で不正に請求し元保険薬局の指定の取消相当となった実例です。いわゆる処方せんの付け替えを行っていたもので、チェーンの薬局などでは場合により点数を上げるための誘因が処方せんの付け替えにはありますが、絶対に不正をしないよう留意する必要があります。これは、薬局開設者のみならず、管理薬剤師、勤務薬剤師、スタッフも同様です。
【処分理由の概要】
実際に行っていない保険調剤を行ったものとして調剤報酬を不正に請求していました。具体的には、特定の患者の処方せんについて、薬剤師が適正に調剤していないにもかかわらず不正に調剤報酬を請求していたこと、開設者が別に開設する保険薬局で行われた調剤分について、当該保険薬局で調剤が行われたものとして不正に調剤報酬を請求していたことがそれぞれ確認されています。また、実際に行った保険調剤に行っていない保険調剤を付け増して、調剤報酬を不正に請求していたこと、具体的には、調剤応需体制のある時間に処方せんの受付けをしたにもかかわらず、一部負担金は患者に請求せず時間外加算を付増請求していました。
事例2 医院の個別指導からの薬局監査
薬局が、匿名の者からの情報提供で個別指導が実施され、経過観察となり、いったんは個別指導が終了したものの、他の医院での個別指導から薬局の不正請求の疑義が生じ、あらためて個別指導が実施され、監査、保険薬局の指定の取消しとなった実例です。このように、薬局の指導監査では、関係の深い医院の指導監査から派生してくるケースがあり、結託して不正をしていた場合は、双方にしかるべき処分がなされることになります。
【事例の経緯・概要】
平成24年12月、匿名の者から厚生局指導監査課に対し、不正な請求をしている旨の情報提供文書があり、平成25年12月に薬局に対して個別指導を実施したが、情報提供の事実関係については確認できず、経過観察で終了となり、平成26年1月に、他の医院に対して実施した個別指導において、薬局での調剤報酬の不正請求が疑われたため、再度、薬局を個別指導の対象機関に選定し、平成26年9月、薬局に対して個別指導を実施し、調剤内容及び調剤報酬の請求に関して不正又は著しい不当が強く疑われたことから個別指導を中止し、平成27年1月、監査の実施に至りました。
監査では、無資格者の処方せんでの不正請求、すなわち、医師の診察を受けることなく、無資格者に作成させた処方せんに基づき調剤が行われたものについて、調剤報酬を不正に請求していたこと、及び、第三者服用薬剤調剤の不正請求、すなわち、記載されている患者以外が服用する薬剤の処方せんであるにもかかわらず、当該処せんに基づき調剤が行われたものについて、調剤報酬を不正に請求していたことなどが確認され、そこで、保険薬局の取消処分となりました。
事例3 架空請求の有罪判決での薬局監査
架空請求で有罪判決を受けた薬剤師について、監査となり調剤報酬の不正請求(架空請求)で元保険薬局の指定の取消相当、保険薬剤師の登録の取消しとなった実例です。このように、保険請求に関して刑事事件の有罪判決を受けた場合、厚生局の指導監査の枠組みでの行政処分に繋がることが通例です。なお、刑事事件の有罪判決は、薬剤師の資格の行政処分(免許取り消し、業務停止など)にも結び付きます。判決の量刑が行政処分の重さに影響しますので、刑事事件となってしまった場合は、できるだけ不起訴処分を目指すべきことを前提に、起訴されてしまった場合は、できるだけ軽い判決とすべく示談等に最善を尽くすことが重要です。
【事例の経緯・概要】
国保連合会から都道府県を通じて、厚生局指導監査課に対し、国保連合会が調剤報酬明細書を調査したところ、サフラン及びザイボックス錠が特定の医療機関から特定の患者に対して長期に渡り大量に処方されていること、この処方に係る調剤及び調剤報酬の請求が、当該薬局において集中して行われており、当該薬局の管理薬剤師である薬剤師に対しても患者として大量に処方されていることが判明し、審査支払機関における査定及び捜査機関による捜査などが進められていることの情報提供があり、その後、薬局の経営者でもある薬剤師が逮捕された旨の報道がありました。そして、薬剤師は、患者に対し、サフラン及びザイボックス錠を調剤した事実がないにもかかわらず、それを調剤したように装い、国保連合会等に対し虚偽の内容の調剤報酬明細書を提出して調剤報酬を請求したことを認め、懲役4年10月の判決が言い渡されました。以上により、監査の実施に至りました。
監査の結果、調剤報酬の架空請求、調剤報酬の付増請求、懲役4年10月の有罪判決の事実が確認され、保険薬剤師の取消しとなりました。
事例4 薬局での処方せんの付け替えの不正請求
大手の薬局チェーンにおいて、処方せんの付け替えが社内調査で明らかとなり、不正請求を会社役員が厚生局に自主申告し、個別指導、監査、保険薬局の指定の取消しとなった実例です。この事例は、薬局業界で大きくニュースになった事例であり、自主的に厚生局に不正請求の申告がなされ、調査にも協力していると推測されることから、私見では、取消処分ではない処分もあり得たのではないかとの印象です。厚生局の本件の取消処分の対応は、原則として不正には厳格な対応をすることを業界に示す結果となったと思われます。
【事例の経緯・概要】
厚生局に薬局の役員が来所し、他のチェーン薬局の不正行為のニュースがあり、自薬局でも社内調査を行ったところ、薬局にて、管内の薬局以外の福利厚生の対象となる職員、家族分の処方箋を集め、実際は他薬局それぞれにて調剤し、薬剤を交付しているにもかかわらず、当該薬局にて調剤を行ったとして、同薬局より調剤報酬請求を行ったと口頭で報告があり、調剤基本料の施設基準について、不正な処方箋の集約方法を用いて、実際には3か月実績で集中率が95%を超えているにもかかわらず、95%以下として、開設者変更後の新薬局において、「調剤基本料3」ではなく「調剤基本料1」の届出を行い、「調剤基本料1」を算定していたとの報告が併せてありました。その後、薬局から報告書の提出があり、個別指導を実施し、中断・中止の上で、監査の実施に至りました。
監査では、処方せんの付け替えでの不正請求と、「調剤基本料1」の施設基準の虚偽の届出の事実がそれぞれ確認・事実認定され、そこで、保険薬局の指定の取消処分となりました。